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奥湯本あじさいホテルと浅田次郎

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プリズンホテル 1 夏 (集英社文庫)

プリズンホテル 1 夏 (集英社文庫)

 

 
本を読むという事は、旅行をする事と似ていると思います。読者は主人公と共に旅行をしているのです。この世界の色んな場所を見るためにはたしかに人生は短すぎます。この地球上だけではなく、この宇宙にあるもの全てを見てみたいというのに! 
そして色んな所を旅行するのも良いけれども、たまには旅館やホテルでゆっくり休みたい時もありますよね。そういう時には奥湯本あじさいホテルに訪れてみることをおすすめします。えっ、そこはプリズンホテルだって? いえいえ、そんなことありません。たしかに関東桜会木戸組が経営するホテルではありますけど、天下のクラウンホテルがかすむほどの良いホテルです。
誠実がタキシードを立っているような支配人。彼はお客様の事だけを考えています。彼はそのクラウンホテルで干されていたようです。彼のような熱血ホテルマンの価値がわからないクラウンホテルは人を見る目がないですね。
この木戸組が経営する前から、このホテルに勤めていたという板長の料理は人の心を軽くします。なんたって、一口入れた瞬間笑いが止まらなくなるほどなのですから。
シェフも忘れてはいけません。彼の料理も板長と並ぶほどの料理です。夜食にはなぜか雑炊とリゾットがやってきました。きっと二人で競い合って作ったのでしょう。どちらも甲乙付けがたいほどもの凄く美味しいのです。
他にも紹介したい人は居るのですが、それは訪れてみてからのお楽しみということで。
このプリズンホテルは「夏」「秋」「冬」「春」の全四巻で構成されています。
四季折々の美しさが、浅田次郎先生の代名詞と言っても良い美しい文章で描かれています。そして浅田次郎先生にはもう一つ代名詞がありましたね。そう、泣かせ屋です。この本には、心にじんわりとくる泣ける話が描かれています。
このホテルに私達は主人公と共に各季節ごとに訪れることになります。そして主人公は毎回このホテルで、他のホテルでは決して体験することができない出来事を体験をすることになるのでした。ホテルに辿り着いたときには死人のような顔をしていた人もホテルから出るときには生気を取り戻した顔をして、笑顔で現実に帰って行くに違いありません。
主人公の名前は「木戸孝之助」、極道小説「仁義の黄昏」で人気となった小説家です。彼は幼い頃に母親が自分を置いてどこかに行ってしまったことがトラウマになっています。そのトラウマのために、まるで子どものまま時が止まったかのような性格です。小説が売れれば母に自分を再び見つけてもらえるとの一心で小説と日記を書き続け小説家になった苦労人です。
この「木戸幸之助」という名前は浅田次郎先生が、投稿時代に使っていたペンネームだそうです。そして今のペンネーム「浅田次郎」という名前はそんな投稿時代のボツ原稿の主人公の名前だそうです。
今ではまったく思いもしないでしょうが、浅田次郎先生には極道作家と呼ばれた時代があります。そんな浅田次郎先生が、この極道小説という路線に埋もれることがないように、かけがえのない習作として執筆されたのがこの「プリズンホテル」です。
この本が刊行された1993年から1997年の間に「メトロに乗って」が吉川英治文学新人賞を受賞。「鉄道員」が直木賞を受賞しました。

 

 

地下鉄に乗って (講談社文庫)

地下鉄に乗って (講談社文庫)

 

 

 

鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)

鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)

 

 これらの作品によって一気に浅田次郎という小説家の名前は世に広がることになるのでした。
そうやって羽ばたいて行った浅田次郎先生の姿を知っている私達にとっては、このプリズンホテルの主人公木戸幸之助がまるで今描かれた主人公かのように見えてしまいます。それほどまでにこの主人公と浅田次郎先生は同一のものに見えてしまうからです。この主人公は極道作家と呼ばれることを嫌っています。そして、その苦労の先に「日本文芸大賞」受賞するのでした。
その姿は浅田次郎先生と重なっています。間違いなくこの木戸幸之助という小説家は過去の投稿時代の浅田次郎先生そのものだと思うのです。木戸孝之助というペンネームで大成することはできなかったけれども、浅田次郎というペンネームでは大成されました。それは子どもが親に恩返しをする姿のようにも見えます。きっと過去の自分にも幸せになって欲しかったに違いありません。
今では時代を代表するような大作家となってしまった浅田次郎先生の原点は、この「プリズンホテル」にあります。新幹線も高速道路も通り過ぎてしまう寂れた温泉街にある奥湯本あじさいホテル。このホテルの従業員とこのホテルを訪れた旅行客達が浅田次郎先生の姿をずっと見守り続けているような気がします。そしてこのホテルには日本文芸大賞受賞によってさらに多忙となってしまった木戸孝之助先生が、缶詰になって小説を書いていることでしょう。
この奥湯本あじさいホテルを訪れることなく死ぬことはなんともったいないことでしょうか。是非一度、訪れてみることをおすすめします。

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