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池井戸潤「陸王」感想

 

陸王

陸王

 

 陸王というとハーレーダビットソンバイクを日本でライセンス生産したバイクのほうが思い浮かびますが、バイクの話ではなく100年続く老舗の足袋屋「こはぜ屋」による足袋とシューズと陸上競技の話でした。

足袋の需要も安全靴に取って代わられて、じわじわと厳しくなっていく状況で、ただちに倒産する心配はない、けれども先が見えている足袋専門で頑張るべきか、倒産するかもしれないが勇気を出して新規事業に打って出るべきかという苦悩から始まります。

そこで、そうだ! ランニングシューズを作ろう! ということで足袋で培った技術をもとに走りに特化した足袋とランニングシューズの間の子のようなものを作り始めます。

そんな商品本当にあるのかなと思い調べてみると実際にランニング足袋MUTEKIという商品が実在するようです。

ただ作中のように陸上競技の大会で使用する用途より練習用としての用途目的なのかな? という気がしました。それでもちょうど箱根駅伝の季節だったのであのランナーと共に陸王が走っている姿を幻視していまいました。

この作品では、主人公宮沢社長より途中から出てくる飯山顧問の存在感が大きい気がしました。繭を原料にした新素材シルクレイがなければ先に進まなかったわけですからね。ヤクザ者にぼこぼこにされて入院が必要なのに病院を抜け出して工場に来たり、自分だけ大儲けする可能性を前にしても宮沢社長への恩義からか抜け駆けしなかったり、登場シーンのやさぐれた姿からは想像できないほどの立ち直りを見せる飯山顧問。

それにしても池井戸先生は、むかつく人間を書かせたら天下一品だとおもいます。ここまでムカつく人間ばかりを前職の銀行で見てきたのでしょうか……しかしながらここで描かれる人間を超えた人たちが世間にはいるのだから恐ろしいものです。

最終的には何があっても上手くいくのだろうということがわかっているのでどんなことが起きても安心して読むことができました。短編小説のほうには、上手くいかない話が少なからずあるのですが、最近のこのタイプの小説だとそういう話はないように思えます。ちなみに病んだ銀行員が、神社の狛犬を社長と呼び粗品を持っていく話が個人的には好きです。

作品には最後まで関係ありませんでしたバイクの陸王も大型自動二輪取得緩和まで生き残ることが出来ていたならば、今も街で走っている姿を見れたのかなぁと最後にふと思いました。